<東アジア新時代(2)>アメリカを追い抜く日は来るか?―『中国の夢』実現へ、「サービス産業化」「一帯一路」「AIIB」に賭ける

八牧浩行    2016年1月1日(金) 9時0分

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各種国際機関の中期予測によると、世界全体のGDPに占める中国の割合は2014年の13%から24年には20%に拡大、「米国を抜き世界一の経済大国になる」という。中国は「中国の夢」に実現へ、経済・軍事力を不気味に拡大している。写真は北京のビジネス街。

中国は複雑怪奇な国である。OECD(国際協力開発基金)、IMF(国際通貨基金)など各種国際機関の中期予測によると、世界全体のGDP(国内総生産)に占める中国の割合は2014年の13%から24年には20%に拡大、「米国を抜き世界一の経済大国になる」という。中国は「中国の夢」の復活をスローガンに、経済・軍事力を不気味に拡大している。

15年7月に世界銀行が発表した統計によると、物価の格差を調整した購買力平価ベースGDPで、2014年に中国が米国を初めて上回った。中国は同年に前年比8.9%増の18兆ドルと、同3.6%増の17.4兆ドルだった米国を抜きトップに躍り出たという。購買力平価ベースGDPは経済の実力を測る指標として最も有用とされる。

言論NPO工藤泰志代表)などが、15年夏に日米中韓4カ国で実施した世論調査によると、今後10年間にアジアにおける中国の影響力が増大するとの回答は、中国、韓国で8割以上、日本、米国でも過半数に達した。 これに対し、10年後の米国の影響力は「現状維持」と予想する回答が各国で多数を占めた。米国の影響力がアジアで増大するとの回答は日中韓で3割以下、米国でも31%にとどまった。

 

一方で中国では「負の遺産」が噴出、乗り越えるべき高い壁が立ちはだかっている。微小粒子状物質「PM2.5」に象徴される環境悪化、天津港大爆発、深セン市工業団地での大規模土砂崩れ、深刻な経済格差と腐敗汚職など多くの「歪」が噴出。2ケタ成長だった経済も減速傾向が続き、成長率目標を「6%台半ば」の安定成長への軟着陸を探る

こうした中、中国経済がやがて行き詰り崩壊するのではないかとの見方が飛び交っているが、丹羽宇一郎日中友好協会会長(前駐中国大使・伊藤忠商事前会長)は、以下のように分析する。

「中国経済は崩壊はしない。GDP成長率は内陸部の重慶が11%に達しているのに対し、遼寧省は2.6%と地域によって差がある。長江デルタ地帯、重慶、武漢など主要16都市だけで中国のGDP全体の50%以上を占め、平均成長率は8.5%にもなる。低成長地域は開発の余地が大きい。 中国では過大な需給ギャップの縮小が急務だ。中国は世界で初めての巨大な資本主義社会であり、(他の国とは)ケタが違う。全体のパイが拡大しているので、GDP伸び率が減速しても『伸びしろ』は従来より大きい」。

さらに、15年8月の上海株式急落についても、「売買の大半は個人投資家によるもので、生活を賭けている人は少ないので、株下落が経済の足を引っ張ることにはならない。給与水準は毎年上昇しているが、労働生産性も急速に高まっているため、国際競争力が下がって輸出が困難になるというのは間違いだ」と指摘した。

上海総合指数は、15年1年を通して10.46%も上昇、日経平均株価の9.07%上昇、NYダウの0.79%下落などを圧倒した。

◆内陸部の都市化が成長を下支え

樋口清之キャノングローバル戦略研究所研究主幹は、中国経済について、「サービス産業化と都市化が進展し、景気は底堅い動きを示す」と分析している。

中国政府は「不健全な経済構造の筋肉質化」を目指し安定成長への転換を図っている。「速すぎた成長速度の適正化」「不健全な経済構造の筋肉質化」を目指し安定成長への転換を図る「新常態(ニューノーマル)」方針を掲げ、金融自由化や構造改革を推進。対外政策面で、新シルクロード構想『一帯一路』、アジアインフラ投資銀行(AIIB)、シルクロード基金、BRICS銀行などに力を入れ、貿易・投資先の確保を狙っている。

GDPのうち消費の占める割合が50%弱に急拡大、重厚長大型工業からサービス産業へのシフトが進行、内陸部を中心とした都市化の進展も、成長を下支えしている。

こうした中、中国政府が進めているのが金融自由化。既に預金・貸出金利の自由化はほぼ実現、目下、為替の自由化に取り組んでおり、遅くとも2020年までには達成する。15年8月11日に、毎朝為替市場の取引開始時に発表される人民元レートの基準値の算定方式の変更を発表した。中国経済の減速と関連させ「輸出拡大を狙った」との報道があったが、IMF(国際通貨基金)から求められていた自由化の一環。IMFのSDR(特別引き出し権)通貨として認められ、人民元は国際通貨として認められた格好だ。

◆ドルを脅かす対抗馬になる?

国際金融情勢に詳しい行天豊雄・国際通貨研究所理事長(元大蔵省財務官)は「戦後、世界経済は米国の経済・軍事力を背景にドル本位制が続いてきたが、その地位を脅かす対抗馬として初めて中国が躍り出た。中国は自信をつけており、(米国のパワーがダウンし)熟柿が落ちるのをじっと待とうということだろう。10年後になるか20年後になるかわからないが」 と語っている。その上で、AIIBについて「これまで台頭する中国が責任のある当事者になれ、と先進国が要求してきたことへの回答と言える。国際的な指導者のひとりであることを証明するために打ち出し、多くの国が受け入れようということになった」と指摘。参加を見送っている米国が入れば、「米国が持つ断トツのリーダーシップの一部を中国に譲ることを意味する」との見方を示した。

紆余曲折はあっても、中国の存在感は一層高まることになろうが、乗り越えなければならないハードルは多い。特に習近平国家主席が重視しているのが共産党独裁体制の正当性の確保。中国共産党幹部の腐敗が、救いようがないほど蔓延しており、このままでは中国が滅びてしまうとの危機感を抱いている。(八牧浩行

<続く>

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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