日本情緒あふれる「銭湯」、外国人にも気軽に利用してもらいたい―「銭湯指差し案内マニュアル」、多言語にも対応―活性化へアノ手コノ手 

八牧浩行    2015年12月20日(日) 13時30分

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銭湯は江戸時代から庶民の憩いの場としてなくてはならない存在だったが、住環境や生活習慣の変化などを背景に減少している。こうした中、外国人に気軽に利用してもらえるように工夫するなど、「銭湯の活性化」を目指す取り組みが注目されている。資料写真。

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銭湯は江戸時代から庶民の憩いの場としてなくてはならない存在だったが、住環境や生活習慣の変化などを背景に減少している。東京都内でも50年前(1965年)に2600カ所以上あった銭湯が700カ所弱に激減した。こうした中、外国人に気軽に利用してもらえるように工夫するなど、「銭湯の活性化」を目指す取り組みが注目されている。

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羽田空港のおひざ元、大田区。飲食店やIT企業に努める中国人やインド人など外国人が多く、2020年の東京オリンピックに向けて、外国人観光客の増加も見込まれる。ところが、「言葉が通じない」「靴を脱がずに入湯するなど外国人はマナーを知らない」といった、数多くの壁があった。この難題を解決するために立ち上がったのが、大田区西蒲田で70年間続く銭湯の3代目経営者の近藤和幸さんだ。大田浴場連合会会長として様々なアイデアを打ち出している。いずれも好評を博し、広く全国でそのアイデアが採用されつつある。

◆銭湯は映画館のように空間が広がる

近藤さんが日本で初めてつくったのが、「銭湯指差し案内マニュアル」。文字通り銭湯の仕組み、マナーから料金まで、外国人が戸惑うあらゆる事象について「Q&A」形式で小冊子にわかりやすく英語と日本語で大書きされている。日本語が分からない外国人客と番台担当者が指差すことによって、意思の疎通を図ることができる。

このマニュアルに載っていない項目や言語で、外国人の方から尋ねられることもある。その対策として、大田浴場連合会では多言語に対応できるコールセンターを設立。外国人客に歓迎されている。

外国人観光客の間で、日本滞在中の不満として最も多いのが、Wi-Fiが不十分な点。近藤さんが経営する銭湯ではWi-Fiにも対応。この結果、同銭湯に来場する1日当たり約250人のうち外国人は50人程度に達し、国際化している。

近藤さんは「銭湯は、まるで映画館のように、空間が広く、迫力もある。その上、人と人が、年齢・立場を越えて、付き合うことができる。『共同空間』『地域の核』として人と人が交流する機能を果たしてきた。ところが、近所の人との付き合いが減り、人は“内”に籠るようになった」と語る。

そこで大田浴場連合会では銭湯を普及させ本来の「地域の核」としての機能を取り戻すために数々の方策を講じた。

子どもに銭湯で多くの人と接しマナーを学ばせる「浴育」の場を提供するために、第1日曜日に家族が同伴する子どもを無料としている。また地域に多い独身者を呼び込むため、大田区内46の銭湯の位置と到達経路が分かるスマホ用GPS連動アプリ「サクッと銭湯マップ」を開発。好評なため隣接する川崎市にも範囲を広げた。さらに70歳以上の高齢者を対象に「いきいき入浴証」を発行、月に3回200円で入浴できる。

◆利用者同士が会話を楽しめるように

銭湯を利用する高齢者について「認知症」の症状が出ていないか見守る運動も始めた。近藤さんは「毎日のように触れあっていると、ロッカー番号を忘れたり、他人のタオルを使ったりするなど変化もわかるので、通報することにより悪化する前に適切な対応が可能になる」と語る。現に、毎日入浴に来る一人暮らしのお年寄りが来なくなったので、家を訪ねたら倒れており、救急車で搬送し、助かったこともあったという。

さらに震災の際の避難所として銭湯施設を提供する取り組みもスタートさせた。大田区から、毛布や食料などの備蓄を受け入れ、震災に備えている。

「銭湯は地域の触れ合いの場。風呂から上がった後も、飲食をゆっくりできる環境を整えたい。利用者同士が会話を交わすことで幸せに長生きできるようになればうれしい」と心を弾ませている。(八牧浩行

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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