<書評>中国習政権、2期目は対外融和路線を歩む!その理由とは?―『習近平の「反日」作戦―中国「機密文書」に記された危険な野望』相馬勝著

八牧浩行    2015年9月13日(日) 10時18分

拡大

タイトルだけを見ると、よくある「過激な“反中”煽り本」と見紛うが、読み進むうちに、綿密な取材に基づいた、中国通ジャーナリストならではの実証的な分析書であることが分かってくる。

(1 / 2 枚)

タイトルだけを見ると、よくある「過激な“反中”煽り本」と見紛うが、読み進むうちに、綿密な取材に基づいた、中国通ジャーナリストならではの実証的な分析書であることが分かってくる。

その他の写真

うたい文句の「機密文書」10本のうち「反日」と読めるのは2本だけ。その一つ「習近平が長老指導者に宛てた『反日』書簡の内容」は、2012年9月の副主席時代、日本政府による尖閣諸島の国有化の直後で反日機運が高まっていた時のもの。もう一つの「習近平の日本との戦争に関する重要講話」は13年12月の安倍晋三首相の靖国神社参拝の翌日開かれた軍事委員会指導幹部会での発言。いずれも立場上、過激な物言いをせざるを得ない局面でのものである。

本書には、権力を掌握しつつある“皇帝”習近平の政治方針、生い立ちと取り巻く人物が詳述され、世界の政治・経済・軍事面で不気味に台頭する中国を知るのに役に立つ。文化大革命(1966〜76年)時代に、副首相だった父が批判され、中学生だった自身も、都市の知識青年を農村に送って肉体労働などに就かせる「下放」政策のもとで、洞窟住居での厳しい生活を強いられた。今の地位に上り詰めるまでの経緯、習の両親と抗日戦争との関係、人生観などを知ることができる。生粋の共産主義者で毛沢東主義者である一面、改革開放も推進する複雑な指導者像も浮かび上がる。

習近平が推進する「腐敗の撲滅」についても多くのページを割いている。習近平の「一般大衆は、ハエもトラもと腐敗分子を退治するのを歓迎していると思う。この一点について、完全に民衆の側に立たなければならない」との肉声を紹介した上で、「習近平の腐敗撲滅にかける心意気は17年間を過ごした福建省時代に芽生えた」と指摘。民衆の貧しさが半端でなかった寧徳地区の党書記だった1990年に、「21世紀までに貧困地帯を消滅させなければならない」と福建省党委に訴え、問題解決へ支援を求めたエピソードを紹介する。こうした中、同地区の幹部たちが公用地を私的に借用し、不法に住宅を建設していたことが発覚、習近平は彼ら全員を処罰した。著者は「これが習近平の反腐敗闘争の原点であり、いまも当時のように純粋な気持ちで全身全霊をかけて取り組んでいる腐敗撲滅運動は民衆から絶賛されている」と記述している。

栗戦書(党中央弁公庁主任)、劉亜州(中国国防大政治委員)、王岐山(党政治局常務委員・党中央規律検査委書記)、劉鶴(党財経指導小組弁公室主任)、範長龍(中央軍事委副主席)といった主要なキーパーソンについて、具体的に取り上げられ参考になる。このうち、人民銀行総裁などを務め国際金融界に知己が多い王岐山とは、不遇の青年時代に意気投合した仲。最も信頼する兄貴分で、実力や実績も高く評価し、腐敗撲滅の陣頭指揮を任せているという。王岐山が北京市長だった時に、ユネスコ北京事務所長として再三会談した評者の友人が、「誠実な人柄で子どもの貧困や重症急性呼吸器症候群(SARS)の撲滅に真剣に取り組んでいた」と語っているから、本当の話なのだろう。

著者は習近平の政治外交方針について「軍部や党内をはじめとする国内の反日勢力を味方につけるためにも対日強硬論を時々ぶち上げ、尖閣諸島問題では一歩も引かない」と指摘する。その一方で、「中国経済の減速が目立つ中、日本企業の撤退が相次いだり投資が鈍っていることに強い懸念を抱き、2017年からの2期目での指導部運営ではより安定した権力基盤の下、山積する内外の問題への対処のために、国内的には改革路線を堅持しながら対外的には融和路線をとるのではないか」と予想する。

習近平が浙江省党書記だった時期に、同省と姉妹省県の静岡県知事を務めトップ同士の交流が度々あった石川嘉延氏は「習さんはとても協調的で日本との経済文化交流を大事にしていた」と評者に述懐している。習近平は浙江省のほかにも、福建省や上海市など日本企業の進出が活発な地域のトップを務めていた時に交渉に当たった日本企業関係者の多くは「経済発展の重要性をよく分かっている人だった。本音は日中経済協力推進だろう」などと語っており、著者の見立てに賛同したい。

著者は産経新聞外信部記者、次長、香港支局長などを務めたフリージャーナリスト。中国の歌姫と言われた妻である彭麗媛の華麗な人脈や「中華民族の復興」「中国夢」「海と陸のシルクロード」「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」などの構想、ゴーストタウン“鬼城”の実態なども書き込まれ、「中国の今」を知る読み物としても興味深い。(評・八牧浩行

相馬勝著『習近平の「反日」作戦―中国「機密文書」に記された危険な野望』(小学館刊、1500円税別)

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

この記事のコメントを見る

ピックアップ



   

we`re

RecordChina

お問い合わせ

Record China・記事へのご意見・お問い合わせはこちら

お問い合わせ

業務提携

Record Chinaへの業務提携に関するお問い合わせはこちら

業務提携